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写真家・名越啓介の
写真展『DUNE』が
IMESにて開催。

  • Update :

    May 23, 2025

5月24日(土)から6月1日(日)の9日間、大阪・中津のエディトリアルスペース『IMES』にて、写真家・名越啓介の写真展「DUNE」が開催。

 

本展は、2023年2月から約1か月にわたり、アルジェリアのオアシスであるジャネットをスタート地点としたサハラ砂漠にて撮影。トゥアレグ族と共に砂漠を彷徨い、生活をしながら撮影した、大判を中心とした写真群と、研究機関と一緒に制作した温度で写真が浮かび上がる特別仕様の作品を展示する。

 

世界の辺境地域やマイノリティーなコミュニティーに入り込み、寝食をともにすることで被写体の素顔を引き出してきた名越氏。本展は、被写体を決めず、ただただ揺られる列車からみた風景や、過ぎゆく時間のなかで、自問自答するように撮った作品「ON THE LINE」(2022)の延長だと言う。

 

会期がいよいよ目前に迫るなか、「DUNE」のストーリーや見どころを名越啓介氏に聞いた。

トゥアレグ族との1ヶ月に渡る生活。

 「高校中退後に世界を放浪し、サハラ砂漠の横断に挑戦するも失敗。数年後の2度目のチャレンジで亡くなってしまった上温湯 隆さんの手記「サハラに死す」を読んだことがあって、彼の冒険心に感化されたんです。情熱を持って夢に向かって突き動かす初期衝動ですよね。それを読んで、乾いた砂漠を自分の足でどこまで進めるのか? という関心があったことと、仕事のパートナーであるフランス人ジャーナリストからもサハラ砂漠のことを聞いていて。2023年のいいタイミングで、アルジェリアの南部にあるジャネットというオアシスに行くことができたんです。遊牧民のトゥアレグ族の人たちがいる場所で、そこをスタートに彼らとともに砂漠に入るのですが、1歩足を踏み入れると自分がいまどこにいるのかが全く分からなくなるような過酷な環境。現地のひとと居たとしてもその土地を熟知しているひとでないと、どっちから来たのか迷ってしまうような。当然、電気も電波も無いし、同じ地球とは思えないくらい音も無く、ただただ砂漠。月の位置を頼りに歩きますが、自分の足跡を見失うと、一瞬にして遭難してしまうような場所で。そこを故郷に生きるトゥアレグの彼らと、サハラ砂漠で約1ヶ月生活をともにして撮ったのが今回の写真です」。

 

 

トゥアレグと聞くと、エルメスのアクセサリーを筆頭に、2012年にグラミー賞を受賞した砂漠のブルースバンド「TINARIWEN」を連想するだろう。しかし、遡ること19世紀終わり頃、フランスの植民地時代に引かれた国境により彼らの故郷は5カ国に分断。以降は、トゥアレグの一部が故郷を取り戻すため戦士となり、現在にいたるまで紛争が続く。名越氏はそんな実情をはじめ、トゥアレグ族に対する知識はほとんどなかったと言う。しかし、ともに生活していくなかで少しずつ彼らの伝統やスピリットを理解していった。そのなかで、日本の美的感覚、“幽玄”が結びつくこととなる。

 

「意外にも女系社会で、ベールで顔を隠すのは男性。祭りでは女性がリズムを取って男性が踊る。イスラムとは逆ですよね。実際彼らと生活していると、無駄口を叩かないし、寡黙。ある人から「トゥアレグの人たちは武士道に通ずる」と聞いたことがあって。藍染めの青い衣装に身を包み、戦うときは武器を持ってラクダに乗る。まるでサムライのような、日本に通ずる部分を実際に感じて。これまでいろんな国を旅してきて、そこで日本人である自分が見たこと、感じたことを写真に収めています。サハラ砂漠の旅では、そんな日本の幽玄な部分と重なり合うことがたくさんありました。そのひとつがパノラマの画角。これは日本の掛け軸からインスパイアしています」

見たことがない新しい写真のアプローチ。

そして今回の展示では、写真史上初めてとなる実験的な試みも。ある研究者と共同で、温度によって色が変化する特殊な加工を施し、写真の新たな可能性を模索した。

「昔からお世話になっていた元マネージャーの息子さんが特殊技術の研究者で、あるとき「一度、名越さんの写真で試したいことがある」と言ってくれたんです。彼は京都の西陣織で、繊維に特殊な塗料を含ませると、それが温度によって光ったり、音が出たり、と最先端の開発を行っている研究者で。今回展示する写真は、和紙の繊維の中に特殊な塗料を染み込ませて、時間の経過とともに写真が浮かび上がったり、消えたりする、全く新しいアプローチをさせてもらいました。約1年かけて試行錯誤し、研究しながら出来上がったもので、この写真ではある時は夜に、ある時は朝に姿を変えるんです」

※温度により変化する映像を一部スクリーンンショットで切り取ったもの。右方向に時間が経過している

実際に会場で見る写真は、大判で精彩。目の当たりにすればきっと、その迫力に圧倒されることだろう。

最後に「DUNE」の見どころについて聞いた。

「アメリカとアフリカで場所は違いますが、貨物列車に乗って一本のレールの上を延々と走った「ON THE LINE」のパート2だと自分は思っていて。自然が生み出した極限の環境のなか、逃げることができない現実を前に、自問自答するように写真を撮りました。今回の展示は、トゥアレグ族の生き方と、サハラ砂漠でひとりの日本人が見た砂漠に浮遊する死者の目線。そして新しい写真の表現方法をご覧いただきたいですね。会場でお会いできることを楽しみにしています」

 

 

1ヶ月の旅で、肌で感じた力強いトゥアレグとサハラ砂漠で見た壮大な風景。

ぜひ会場で名越氏の生の声とともに、作品をご覧いただきたい。

本展では、《SUICOKE》とコラボレーションした写真集「TUAREG」も販売。砂漠の美しい風景や一緒に旅をしたトゥアレグ族の生活の様子、結婚式や紀元前から行われている祝いといった貴重な写真も収録されている

写真集「TUAREG」

部数:限定500部 金額:¥3,850

装丁:ハードカバー

サイズ:B4変形(235mm×303mm) ページ数:80ページ

発売元:株式会社ORGY ※名越啓介サイン入り

【PROFILE】

名越啓介 / KEISUKE NAGOSHI

 

大阪芸術大学卒。19才で単身渡米し、スクワッターと共同生活をしながら撮影。その後アジア各国を巡り、2006年に写真集『EXCUSE ME』を発表。世界の辺境の地域やマイノリティーなコミュニティーに入り込んみ寝食を共にしながら撮影をするスタイルを続ける。写真集『SMOKEY MOUNTAIN』、『CHICANO』、『BLUE FIRE』、はじめて国内を題材にした『Familia 保見団地』では『写真の会』賞受賞。2023年公開映画「ファミリア」(成島出監督・役所広司主演)の原作の一部となった。2019年8月『バガボンド インド・クンブメーラ 聖者の疾走』、2021年には『ALL.』をリリース、最新写真集では主に自身の祖先の土地を撮影した『よあけ』(2023年)を発売

 

Instagram : @keisuke_nagoshi

名越啓介 写真展「DUNE」

会期 : 2025年5月24日(土) – 6月1日(日)

会場 : IMES(IMA:ZINE 2F) 大阪市北区中津3-30-4

TEL : 06-7506-9378

Open : 12:00 – 19:00 (日曜12:00 – 18:00)

Instagram : @imes_osk , @imazine_osk

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