Feature 10

Japanese New
“DARUMA” World

スケボーに乗る“だるま”たちの行進。
寿印が開いた、伝統の新世界。

  • Update :

    Jan 30, 2025

江戸時代より縁起物として親しまれてきた「だるま(達磨)」。だるまと聞くと、節目やお祝いごとで完成されただるまに目を入れることをイメージするが、その表情・姿は様々。有名どころでは群馬県の高崎だるまを筆頭に、土地土地の風土・風習が反映される、日本古来の郷土玩具である。そんな、日本の“顔”とも言える伝統の民藝をベースにしながら、まったく新しい価値観の“DARUMA”を創る『寿印』こと田中寿尚氏。日本に多数のファンを持ち、いまや海外の著名人たちからも注目される寿印のプロダクトたち。その、大阪では初となる個展が開催されるとあり、会場である南船場『i GALLERY OSAKA』のドアを開けると、想像をはるかに超えただるまワールドが広がっていた。いままであまり触れられてこなかった寿尚氏とだるまの出会い、スケボーだるまが生まれたきっかけ。そして大阪万博の年を記念したソロエキシビションについて聞いた。

古着から一転、達磨に傾倒。

「20代からアパレルの店を運営する会社に勤めていたんですよ。古着屋とセレクトショップ、2軸の会社で、僕は基本的に古着屋のほうを担当していて。アメリカにもよく買い付けに行っていたので、Made in USAのことばかり。当時は、日本製の洋服だったり日本のモノにあまり興味がなくて、もちろん“だるま”のことは何も知りませんでしたしね」

 

昔から好きだった古着を中心に、盲目的にアメリカ物を追いかけた。しかし一転して、自分の国のことをもっと知りたい、という思いが芽生えたという。

 「結婚を機にこのままアパレルの仕事を続けるべきか、それとも一度リセットするべきかめちゃくちゃ悩んだんです。それで、特に当てがあるわけではなかったのですが、会社を辞めて。退社後、数ヶ月に渡って日本のいろんなところに旅していたら、いままでちゃんと見ていなかった日本のカルチャーに興味が湧いてきたんですよ。そんななか旅の途中で、岡山の“吉備津土人形”という郷土玩具に出会って。いまで言う“ゆるキャラ”のような佇まいの達磨なんですが、自分がイメージする達磨と全然違っていて、「こんな世界が日本にあったのか」と衝撃を受けて。それからは、達磨の背景をもっと知りたくなり、日本の北から南、いろんなところに行っては買い集めてましたね。元々が古着畑なことと、蒐集癖も手伝って(笑)」

自身が送った“水”が生んだ
スケボーだるま。

国内の旅で出会った達磨をきっかけに、まだ見ぬ達磨をディグしに日本各地を訪れる。日に日に達磨愛が増していくなか、その達磨を通して福岡・今泉の郷土玩具店『山響屋』の店主・瀬川 信太郎氏と出会った。瀬川氏が所属する、作り手や研究家などで構成される“全日本だるま研究会”という同好会に自身も入会し、だるまに携わる様々なひとと交流を深めていくなか、蒐集のみに留まらず自身の手でだるまを作るきっかけに巡り合うこととなる。

 「あるとき、研究会が貸し出していた江戸達磨という東京のだるまの木型が戻ってきたんです。それを「誰か張れるひといないかな?」という話になって。僕は趣味で蒐集しているだけでしたが、「もしかしたら自分でも出来るんじゃないか」と思って作らせてもらったんですよ。ただ、ほぼ独学で進めているなかで、「横浜出身の自分が東京の伝統民藝を作って良いのかな?」 という疑問が湧いてきて」

 

自身のルーツではない地の民藝を作る、ということの難しさに直面した。しかしそれに端を発して、自分にしか作れないものを作りたいという気持ちが高ぶり始める。ちょうどその頃に起こった熊本地震。そして彼が横浜から少しでも出来ることを、と送った救援物資がスケボーだるまの誕生のきっかけになったという。

 「被災地に直接物資を届けることができなかったので、一旦『山響屋』に送って、(瀬川)信太郎が福岡から届けてくれることになったんです。その道中で、僕が送った水の箱をスケボーに乗せて運んでる画像を送ってきてくれたんですよ。それを見た瞬間に「あ、なんか降りてきたかも?」という感覚があって」

 

長い伝統と歴史を持つ達磨。日本のいわゆる民藝品と、アートは似て非なるもの。寿尚氏は、いままで捕らわれていた民藝品への敬意を持ちながら、アートとして達磨を表現することを選んだ。そして生まれたのがスケボーに乗った達磨。このスケボー達磨を日本、そして世界へと発信していくこととなる。

 

「ただスケボーに乗っている風だと面白くないので、ちゃんとウィールが回るように作りました。最初はほとんど趣味で作っていたのですが、知人たちに見せていくうちにどんどん広まっていって。嬉しいことに、表参道の『CIBONE』や『ワタリウム美術館』、様々なセレクトショップなどから個展やポップアップのオファーをいただいたり、〈adidas〉さんからの制作依頼など、ブランドさんとのコラボレーションさせていただいたり、ですね。山響屋と一緒に開催した2019年のニューヨーク展は散々でしたが(笑)。いまでは海外からも問い合わせがありますが、当時は達磨というものがまったく日本以外には知られていなくて。大阪では、IMA:ZINEで毎年開催されている山響屋の期間限定ショップにヤチコダルマと参加させてもらっていますが、単独での展覧会では今回が初めてなんです」

スケボーだるまをきっかけに
伝えたいこと。

「僕は日本を旅するなかで、達磨に出会うことが出来ました。それがきっかけとなって生まれた“スケボーだるま”を通して、初めて達磨に興味をもった方、おもしろさや可愛さを知っていただいたかたには、もっと歴史の深い日本各地の郷土玩具を見てもらいたい、というのはずっと思っていますね」

 

各地への旅で、改めて日本の伝統、そして達磨に目をむけた寿尚さんと同じように、知る“きっかけ”をスケボーだるまたちは運んでいる。

それは、まさに寿尚さんの分身とも言えるだろう。

 

南船場の『i GALLERY OSAKA』にて開催されている、〈寿印〉としては初めてとなる大阪での展覧会は「EXPO 2025 大阪」をテーマに、大阪の街を感じさせる風景や馴染みのあるシンボルをモチーフにした作品が展開されているほか、イギリス、スペイン、メキシコなど各国を象徴する衣装と国旗が描かれた達磨も。その数、総勢62体。そのすべてが入口のほうを向く様は、まるで達磨たちが行進しているかのようだ。会場内ではアトリエでの制作風景のムービーがプロジェクションされるなど、寿印の世界観が表現されている。寿印が創造する、見たことがない達磨ワールド。次回の開催も楽しみに待ちたい。

 

 

〈TOSHIHISA TANAKA / 寿印〉
DARUMA EXPO 2025 "DOPE"

会期 : 開催中 – 2月3日(月)

会場: i GALLERY OSAKA(大阪市中央区南船場3-8-14 ACN心斎橋 Garden1F)

Open:12:00 – 19:00

Holiday : 火曜

TEL:06-4708-7065

HP : https://www.igallery-osaka.com/

Instagram : @igallery_osaka

Photo / Kengo Yamaguchi

Edit & Text / Masashi Katsuma

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