ナビゲーターは20数年の長きに渡り神戸に根を下ろし、2021年に南京町で小さなギャラリー『VILL|a small place』をスタートした田村圭介さん。「出身は徳島なんですが、前職時代から長く住んでいることもあって、神戸は非常に馴染み深い街。昔からのセレクトショップや飲食店、そして中華街を連想されがちな元町は、スケーターたちが作ったショップ兼ギャラリーが出来たりと新しいウネリもあります。ここ南京町に小さなギャラリーを構えたのも、そんな居心地の良さと、新しい動きとのバランスに魅力を感じたからですね」と田村さん。元町・中華街の端から神戸駅周辺までのんびり歩くこと約30分。古くから四姉妹が営む喫茶店に、老舗の玉子焼き、ヴィンテージにめっぽう強い新店など、どちらも個性派揃いのエリアです。
NAVIGATOR
VILL|a small place
田村圭介さん
前職のBEAMSでは、グラフィックやデザイン、アートを洋服で体現する〈BEAMS T〉を担当。退社後、地元である徳島に戻り、家業のいちご農家を継ぐ。現在は遊休資産活用やアートプロジェクトの企画の傍ら、神戸・南京町で小さな展示室『VILL|a small place』を運営。
1. VILL|a small place
南京町の雑踏に潜む
小さな展示室
今回のナビゲーター、田村さんが運営する展示室『VILL|a small place』は、観光客で賑わう南京町の最南端の雑居ビルにひっそりと佇んでいる。「芸術教育を受けていないけれど、現代アートの文脈で解釈できる作品を作っている、一般的なギャラリーで展示していないアーティストたちと実際に会える場所というのが神戸にはあまり無くて。長年神戸にいて、アートに近い場所にいたからこそ、ひとが集まるきっかけとなる場所を作りたかったんです。大きいスペースではできないこと。逆に言えばこれくらいの小さなスペースだからこそできること。前職時代を含めこれまで出会ってきたひとや、そこから繋がったアーティストの展示を主に開催しています」。エキシビションはスローペースに不定期開催ながらも、過去には大阪のグラフィティライターのVERYONE氏、コラージュアーティストのasota氏、今回のMY HOME TOWNでご紹介する『studio kushikatsu』のRay氏など、スケーター勢を筆頭にストリートに根付くアーティストを紹介してきた。この無限の可能性を秘めた小さな空間から、まだ見ぬアート・カルチャーが発信されていく。
「2022年にオープンした古着屋で、すごいヴィンテージのラインナップ。まるで時代と逆行しているかのようなアイテムセレクトだけど、“THE古着屋”な感じはなくて、店内はとてもクリーンなんですよ」と田村さん。元々ヴィンテージを蒐集していた店主・嶋田さんが40歳で脱サラしスタートした『FILTER』は、希少価値が上がり続けているリーバイスのXXに1st、’40s〜’50sのカバーオールが大量にラックにかかっていたり、と特にデニム類に圧倒的な自信を誇る。またオールドのティファニーをはじめとしたシルバージュエリーも多数。ヴィンテージのほか、神戸のビスポークシューズメーカー〈SPIGOLA〉や、同じく神戸のシューズブランド〈NORIEI〉、〈SOAK IN WATER〉のレザーベルトなど、ヴィンテージとも抜群の相性をみせてくれるセレクトブランドも少数展開している。大人の服好きにこそバチっとハマる、魅惑のラインナップだ。
「玉子焼きといえば、ここ。この味が恋しくて神戸を離れられないひとは数知れず。現社長の山田勝宏さんはアパレル人との繋がりも深く、玉子焼き屋に留まらない動きをしているのもおもしろいですね」と、田村さんも改めて注目している山田製玉部。1952年に創業、玉子焼きを作り続けて70余年を迎えたこちらは、老若男女問わず長く愛されている神戸メイドの代表的存在だ。ほんのりした甘みがウリの名物 本玉(厚焼き玉子)、京風 だし巻き玉子、正月には欠かせない伊達巻。これらは1Fの直売店で気軽に購入でき、その味を口にするのが神戸のひとたちの日常の光景だ。3代目となる山田勝宏さんが2021年に代表に就任してからは、老舗の味を守るだけでなく“攻め”の姿勢も。まずはコロナ禍にオンライン販売をスタート。さらに、本社の真裏にあるアイドルが手掛けるブランド「NARUHESON;S」とのコラボレーションに加え、昨夏に開催された野外イベントの目玉アイテムとして、大阪・新世界発の〈BOKU HA TANOSII〉に別注した“玉子焼きカラー”のTシャツ〈BOKU HA OISII〉も展開するなど、伝統深き玉子焼きの世界に山田さんならではの息吹を宿している。
「メルボルン、LA、ニューヨークなど、それぞれが神戸と海外のストリートカルチャーを体感してきたスケーターからなる“kushikatsu”クルーが創ったショップ&プロジェクトスペース。先述したとおり、僕の展示室でメンバーのRayに個展をしてもらったこともあり、彼らの動向に注目しています」。神戸にゆかりがあるメンバーを中心に、インターナショナルなカルチャーをもつスケーターたちの拠点が神戸に誕生したとあって、オープン前から楽しみにしていたという田村さん。2013年に6名の少年たちで結成された“kushikatsu”クルー。それから10年の時を経て大人になり、2023年に念願のオープンを果たした『studio kushikatsu』は、スケートギアとアパレルを展開するオリジナルの〈lola’s hard ware〉を筆頭とするウェア&グッズのほか、彼らの頭のなかを具現化したエキシビションを精力的に開催するなど、神戸のスケート・アートシーンにおいて早くも異彩を放っている。
〈have a good time〉とコラボレーションしたロゴTシャツ¥9,900
ボルト&ナットをセットにした〈lola’s hardware〉の7/8″ INCH PHILLIPS HARDWARE 各¥770