Feature 11

“Stussy”
in My Hearts

歴史的なアーカイヴを前に想う
ふたりにとっての“Stussy“。

  • Update :

    Mar 15, 2025

サーフボードのシェイパー、ショーン・ステューシーがプロモーションのためにTシャツを作り配布したことが起源となり、1980年に誕生したアメリカ・カリフォルニアのブランド『ステューシー』。90年代以降、日本でもステューシーブームが巻き起こることとなるが、オリジンである彼がデザイナーとして携わった96年頃までのものをオールドとされており、その希少なアイテムたちがいま、熱狂的な注目を集めている。

 

原宿の古着屋『PENGUIN TRIPPER』の店長・アベ ヒロユキ氏は、日本のみならず世界でも有数のオールドステューシーコレクターとして、これまで様々なメディアに登場。ファンが羨む貴重なアーカイヴを長年に渡って蒐集してきたアベ氏の、第三回目となる完全なるプライベートアーカイヴショー“MaGGLe”。大阪では10年ぶりの開催となるMaGGLeの会場となったIMA:ZINEのディレクター・TANYも、古くからステューシーを愛するひとりであり、IMA:ZINEのオープン以来7年越しの夢が実現した、と言う。そんなふたりを繋いだステューシーとの出会い。それぞれが想う、ブランドの創設者、ショーン・ステューシーへの想いを聞いた。

アベ ヒロユキ

 

京都府出身。原宿の古着店『PENGUIN TRIPPER』店長。約25年もの歳月をかけ、オールドをメインに1000点以上をコレション。そのアーカイヴを通してStussyの魅力を発信する

オールドステューシーとの出会い。

アベ氏が《ステューシー》に興味を持ったのは、彼が18歳のころまで遡る。趣味のひとつである古着屋やスケートショップ巡りをしていた、とある日に出会ったTシャツ。それをきっかけにステューシーの世界に引き摺り込まれたという。「実は僕自身、あまりステューシーに興味がなかったんです。すごく有名なブランドで、着ているひとも多かったこともあり、天邪鬼な性格なのでそこを避けてきた、というか。当時は京都のスニーカーショップで働きながら、休みの日や休憩時間にいろんなお店を巡っていたのですが、スケートシューズを見に『50/50』というお店に行ったとき、オーナーさんに勧めてもらった’80sのステューシーのTシャツに、それまで感じたことのない衝撃を受けて。僕が見ていた当時の現行のものとはデザインが全く違うし、単純に昔のステューシーのカッコよさを初めて知ったんです。それからは給料を握りしめて昔のステューシーを堀り集めるようになりましたね」。シンプルなロゴ使いのアイテムが多く展開されていた90年代後半~2000年代初頭のステューシー。アベ氏が手にしたオールドのTシャツは手書きの総柄プリントで、それまで持っていたステューシーのイメージを覆し、“好き“になるきっかけとなった。それから約25年ものあいだ、ステューシーに関するありとあらゆることを研究し、審美眼を磨いて収集してきたコレクションはオールドだけで1200点以上。それらは、いまや貴重な資料となっている。

アベ ヒロユキ氏が、オールドステューシーに傾倒するきっかけとなった思い出の一枚。2000年に京都のショップ『50/50』で購入したもので、波をモチーフにした手書きの細かなグラフィックがプリントされている

TANY(谷 篤人)

 

エディトリアルストア『IMA:ZINE』のディレクター。自身のアパレル人生に多大な影響を与えたショーン・ステューシーからは“TANY”と呼ばれ、本人からもらった未来へのメッセージ“Hey TANY BEST of LUCK ON TOUR FUTURe!! BIG SHOUT…”を左腕に刻んでいる

地元で買った“Bootleg”ステューシー。

TANYがステューシーに出会ったのは中学生のとき、地元の大阪・堺のとある店だった。「トラサルディとかミスタージュンコなどを扱っている、ちょっとヤンチャなセレクトのサーフショップで。いくつかMade in USAのものがあるなかで、Made in Koreaのラスタ配色のフーディーやブートレグのメキシカンパーカーを買ったのが最初でした。アメ村の「テント村」でもブートレグを買わされた記憶があります(笑)」。数年後、高校生になりカナダに留学。現地の友人からプレゼントしてもらった白タグのキャップを思い出に、96年頃にMTVで見た、レイジ アゲインスト ザ マシーンのVo・ザック・デ・ラ・ロッチャが着るステューシーのシャツにひと目惚れした。「僕はコレクターではなく、ショーンの考え方そのものが好き。それは実際に会って、何度も話して感じたことで。物としてすごくカッコ良いけれど、一番の魅力はショーンフォント。このフォントに彼の哲学を強く感じるんです。ショーンフォントが世界の共通言語になっていて、ストリートを生み出し、みんなが歩く「道」のように、様々な人とコネクトしていく。ボブ マーリーの言葉、“Some People Feel the Rain. Others Just Get Wet.” (ただ雨に打たれて憂鬱な気分になるのか、雨を感じ無邪気にはしゃいで嫌なことを忘れることができるのか)。ステューシーのアーカイブを見ていると、この言葉が頭をよぎるんです。後者はとてもストリート的な考え方で、同じ条件、環境でも違う角度で物事を捉える、ということ。僕はそれを、ステューシーの物作りに感じています」

 

互いにステューシーに想いを馳せてきたなか、2016年。休日によく高円寺へ遊びに行っていたTANYは、とあるショップのオーナーから「オールドステューシコレクターのブログがある」との情報を得た。そのブログの主は、アベ ヒロユキ氏。掲載されているコレクションの数々に度肝を抜かれ、その足でアベ氏が店長を務める『PENGUIN TRIPPER』に訪れたのが初めての出会いとなる。以来、ふたりはステューシーを介し親交を深めていった。

ショーンへの想い。

TANYは実際にショーン・ステューシーと協業した過去がある。セレクトショップ『BEAMS』の40周年。海外バイヤーを務めていたTANYはカリフォルニアのジュエリーブランド《ビルウォールレザー》と、ショーン・ステューシーがディレクションした《S/DOUBLE》のコラボレーションを企画。両者を引き合わせた。ショーンとの初めての出会いは2013年。「カリフォルニア・サンタバーバラの《S/DOUBLE》のアトリエに行き、その近所にあったS/DOUBLeの小さなショップに商談しに行ったのが彼(ショーン)との初めての出会いでした。最初は僕のことを“ATSU”と呼んでいたのですが、英語だと“ツ”が発音しにくいから、途中から“TANY”に変わっていって(笑)」。憧れでもあったショーンと出会って以来、現在でも友好関係を築いている。「僕自身はアベさんのようにコレクションしているわけではないけれど、ブランドとしてのステューシーが好きになり、時を経てS/DOUBLEとしてショーンと仕事ができたのは人生の誇りです。ぜひ、また素晴らしい作品を一緒に考えることを夢見ていますね」。

 

 

  • BEAMSの40周年を記念し、ショーン・ステューシーが手がける《S/DOUBLE》と制作したバーシティジャケット

  • いまでも大切に保管している、バーシティジャケットの絵型

  • 長年にわたって使用している《S/DOUBLE》のハット。元の色が不明なくらい使い込まれた、ショーン・ステューシーへの愛を感じる逸品

一方アベ氏は、オールドステューシーの物作りから感じるストーリーを考察。そして、もう二度と出会えないかもしれないアイテムを通して、ステューシーの魅力を世に広めている。「昔のステューシーを見て、例えばTシャツだったら「どういうテンションでこのデザインをしたのだろう?」とか、「このグラフィックには、どんな意味が込められているのだろう?」という、当時のデザイナーとしてのショーン・ステューシーの頭のなかを想像するのが好きで。昔に作られたモノを見ていて、他のブランドにはない洋服に対するこだわりを感じる部分が無数にあるんですよね。それを自分なりに察するのが面白くて。この“MaGGLe”はパトワ語で「見せびらかす」という意味があり、自分が集めてきたアーカイヴを見てもらいたい、という意図があります。それに加えて、リアルに当時のステューシーのことを知っているひとと出会える場、としても捉えていて。2000年頃からステューシーを掘りはじめた自分にとって、WEBや雑誌にも載っていない当時のことを知っているひとに出会うことができるきっかけになれば、と思っています」。

「今回IMA:ZINEで特別なMaGGLeを展示していただいて、自分自身がすごく嬉くて楽しいし、実際にアベさんのコレクションを目の当たりにしてレイアウトしながら、ずっとこの空間にいたい、という感情が湧き上がってきました。最終日までもうすぐですが、まだお越しいいただけていない方も、一度ご覧いただいた方も楽しめる内容となっていますので、じっくりとステューシーの、そしてショーンが表現した世界を見ていただきたいですね」(TANY)

 

実際に会場では、写真でも目にすることができないような貴重なアイテムの数々に、感嘆の声が上がっていた。また、日本で正規展開されていなかった80年代から90年半ばにステューシーに触れていたひとが、そのアーカイヴを目の当たりにして感極まるシーンも。

 

次回の“MaGGLe”は恐らく数年後の開催になる。

もしかすると、ステューシーのブランド設立50周年を迎えているかもしれない。

 

その頃には、もっともっとたくさんのひとのステューシー愛に溢れることだろう。

“Old Stussy” Archive Show
《MaGGLe》 at IMA:ZINE

会期 : 開催中 – 3月16日(日)

会場:IMA:ZINE 2F(大阪市北区中津3-30-4)

Open:12:00 – 19:00(日曜 12:00 – 18:00)

Holiday : 無休

IMA:ZINE Instagram : @imazine_osk

アベヒロユキ Instagram : @xxabehiroyukixx
 
 

 

 

Photo / Yuji Iwai

Edit & Text / Masashi Katsuma

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