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LVDB BOOKS

感覚を呼び起こす、本のチカラ。

前から気になっていた店名〈LVDB〉の由来を聞いてみた。「あんまり深い意味はないんですけど…」と前置きした上で、店主の上林さんは『ラヴィ・ド・ボエーム』という1992年のフィンランド映画の頭文字から取ったことを教えてくれた。「家賃を滞納した話から始まる、不幸な感じがいい」という。扱う本は、ゴッホの画集なんかもあればシンガポールのデザイナーから直接仕入れるZINE、ファッション写真集、エッセイ、絵本に文庫まで、新旧問わずジャンルレス。音楽好きだという上林さんが「クラブで出会ったつながりなど」の(ユニークで)素晴らしいアーティストたちの不定期な展示も見逃せない。

住宅街の中にある違和感。

目の覚めるビジュアル、自由な装丁、触る愉しさ、言葉の引力、想像力…。それにしてもここにある本はどれも、五感を駆使して訴えかけてくる。住宅街という、日常の延長にあるのもいい。車が通れない分、犬のおさんぽ中のおじさんだってふらりと小宇宙に迷い込んでくる。あなたもここへ来ればきっと、AIじゃたどり着けない本の魅力に気づいてしまうはず。

  • 『再見楊德昌[典藏紀念版]』王昀燕著(王小燕工作室、2020)¥4,510。エドワード・ヤン監督と台湾ニューシネマに関するインタビュー集、復刊版

  • 『昆虫記』今森光彦著(福音館書店、1988)¥3,520。ビジュアルブックとしても見応えのある1700枚の写真を収録

  • 『ココロのヒカリ』谷川俊太郎作・元永定正絵(文研出版、2010)¥1,540。文はもとより、挿絵のインパクトに目を奪われる一冊

  • 『東京の生活史』岸政彦編(筑摩書房、2021)¥4,620。150通りの生き方を150の聞き手が記したかつてない厚さのインタビュー集

  • 『Hello Future』Farah Al Quasimi 著(Capricious、1991)¥8,030。アラブ首長国連邦出身の若手アーティストによる写真集

Text : Mio Wajima

Photo & Edit : Yuji Iwai

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