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井尻珈琲焙煎所

本読みが集まる静寂の世界。

ときには満員で、全員が本を読んでいるときもあるという。ここは、井尻さんがひとりで営む喫茶店。「みんな、静かにコーヒーを飲んでいる。ひとりになりたい人を守ってくれる、そんな場所でありたい」と話すように、店内はカウンターメイン。ちょっと他ではないような店内の暗さも、そのためだ。時間が止まっているような錯覚さえあるから、おしゃべりしたりスマホを開くのも諦めてしまう。

  • メニューは月替わりのブレンドでつくる本日の珈琲とミルク珈琲のみ。ペーパー・ネルのドリップを選べる。各¥500、ミルク珈琲のネルは¥600

戦前からの歴史を持つ大阪のメーカー、富士珈機の直火焙煎機を使用。もちろん井尻さん自ら毎日焙煎している

深く余韻が楽しめるコーヒー。

スモーキーでしっかり濃いめのコーヒーは、一口飲むとじんわり心地よい余韻が広がっていく。まさにこの時間を愉しむための一杯だ。ドリップの音や豆の香りとともにゆっくり味わっていると、脳内が浄化されるような感覚になる。テイクアウトもしていないし、映えるスイーツもない。代わりに、レコードや本棚もおもしろく、静かなコーヒー時間でしか出会えないものがここにある。近所のおばさんがレコードの音に耳を傾けていることもある。黙々と、そんな言葉が似合う空間で、コーヒー一杯分だけ騒がしさから逃れる。普段つくろうとしてもつくれない大切な時間を、ぜひここで。

  • 生粋の音楽好きでもある井尻さんのレコード棚と、PASTEL RECORDSの販売コーナー。アンビエント、ジャズ、ロックまで幅広い

  • 葉ね文庫、ホホホ座(西田辺)、八上書林がセレクトするブック棚。店内で読むことも、購入することも可能(写真内上段は葉ね文庫)

Text : Mio Wajima

Photo & Edit : Yuji Iwai

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