Feature 6

IN PROGRESS

【連載 第二回】「前進する西の食」 by 松尾修平(Meets Regional 編集長)
“街のおっちゃんにもスペシャルな一杯を。
業界でも話題騒然、大阪・江坂発の
スペシャルティコーヒーロースター。”。

  • Update :

    Aug 26, 2022

カフェラテがもはやスープ。
人生初のコーヒー体験。

確度の高いコーヒー・カルチャーを伝えるコーヒー専門誌「STANDART」にて、店のオープン前から自社の豆が紹介されたり、毎年イタリアで開催されるデザインコンペティションで最高賞を受賞したり。昨年のオープンから1年足らずで、既にコーヒー業界で話題騒然のコーヒーショップが大阪・江坂にある。<テラコーヒーロースターズ>だ。

 

 出会いは昨年末、大阪・京橋の焼鳥店<um>にて。「あのテーブルの人、面白いコーヒー屋さんなんすよ」と<um>の店主・米村くんが紹介してくれたのが、<テラコーヒーロースターズ>のオーナーであるノリくんこと西村紀彦さんだった。このときは帰り際だったのもあって、名刺だけ交換して別れたのだけど、後日すぐに連絡が来て「ウチの焙煎所に来ませんか? 来週はどうですか?」。アクティブな人やな~と思いつつ、米村くんの言う“面白い”理由が知りたくて、さっそく店に伺う日程を決めてノリくんを訪ねたのだ。

 江坂の店に立っていたのは、ヘッドロースターの山本順平くん。挨拶もそこそこに「さあ飲んでみてください」と、おすすめの一杯を頂く。薄い赤ワインみたいな赤みを帯びた浅煎りだ。で、少し口に含み、電気が走った。はっきり言ってコーヒーは素人同然だけど、それでもほんのりとベリーのような甘みと香りが腔内に充満する、格別に澄んだ一杯だと分かった。飲み進めても苦み皆無。その後に飲みくらべた多種の豆も透き通った味わいだし、極めつけのカフェラテはまるでスープのようなとろみある食感、これはもう食べ物やん。人生初っていうほどの種類のコーヒーを飲み比べたけど、飲み疲れなかったのにも驚いた。なんだこの不思議なコーヒー。

ノリくんこと西村徳彦くん。趣味は自転車で、休日には数百キロ走破が日課。相方の順平くんを口説く際も、大阪の吹田から嵐山まで自転車で通ったそう。

ヘッドロースターの山本順平くん。[テラ~]で扱う豆の選定から焙煎までを請け負う、まさに店の心臓部。先日には4年ぶりのベルリン視察も

「コーヒー王に俺はなる!」
(ワンピース? いやDB世代やん)

 オーナーのノリくんは、1978年生まれの午年。衝撃のコーヒー体験に加えて僕と同い年ということもあって、先の訪店を機に急接近。飲みに行ったり友人を紹介し合ったりマラソンをしたり(?)、公私共に仲良くさせてもらっている。

 

 彼の経歴を話すと、前職はコーヒーと全く関係ない仕事をしていて、その出張で全国を回る中で、各地のスペシャルティコーヒーを飲んで周り、その魅力にとりつかれたそうだ。「国内の人気コーヒー店は飲み尽くしたし、コーヒーに関する海外のサイトやYoutubeもほとんど見切った」という、いわばドがつくコーヒーマニア。「じゃあ次は…と海外の超有名店の豆を自分で仕入れて飲み始めた。国内の豆と飲み比べてみたり。すると海外ロースターのクオリティの高さ、レベルの高さにビックリして。これはもう自分で仕入れてコーヒー屋をやろうと。ただ、俺は素人目線。コーヒーには、どこで働いてどんな豆を扱ってきたかっていうストーリーが必要。それから相方を探したんやけど、ピンとくる人が全然いなくて。そんな時、たまたま訪れた京都のブレンドの豆が主軸の店で飲んだシングルオリジンが、透き通るみたいな美味しさで。それを焙煎してたのが順平。翌週には順平が働いてる嵐山の店まで会いに行きました」。当時を振り返り、順平君は苦笑する。「嵐山の観光地に、自転車乗りの格好の3人組がいきなりやってきて、順にホットとかラテとかひととおり飲んでまくしたててくるんです、『お前なんなん?』て。ややこしい人来たなって思いました(笑)」。

 

 順平くんは20代前半で某コーヒーチェーンからコーヒーの世界へ。バリスタの大会などにも出場していたが、続けるうちに競技性に疲れてきたことと違和感を感じ、気分転換と一人旅で海外を回り始めたそうだ。その時に訪れたベルリンのコーヒーカルチャーに居心地の良さを感じ、単身ベルリンへ。「(ベルリンでは)1日に何回もコーヒーを飲むから、日本のように嗜好品っていう概念じゃなく、日常的なドリンクなんですね。コーヒーが文化として生活の一部に根付いている国で働いてみたかった。で、4~5年やっていくうちに豆の品質管理などを任されたりしたら、日本で学んだことが基礎でしかないと気づきました。世界はまだまだ広いから、もっと勉強必要だと。で、抽出から焙煎の方に興味が湧き、たまたまオープンしたばかりの店で焙煎を勉強させてもらえることになったんです」。かくして彼は、日本人で初めてベルリンでワーキングビザを取得したバリスタとなり、2018年12月に帰国。地元の京都で働いている時に、ノリ君と出会ったのだ。「順平は、ずば抜けた抽出&焙煎技術だけでなく、例えばマシンのことを聞くと、俺でも『そのブランド何?』とか、メーカーの人間ですら『聞いたことがない』っていうマシンを知ってた。あ、コイツは世界の最先端の情報を知ってるなと」ノリ君は直感的に感じ、相方に相応しいと確信したという。

 

「ノリさんは毎週のように僕の店に来るようになるんです。でも話してると、開店のために常に動いてる。そのスピード感もスゴかった。自分に持ってないもの…自分だけやとできないことができるかなと思って、一緒にやることを決めました。真顔で『俺、コーヒー王になる』って言われた時はちょっとヒきましたけど(笑)」。

「持ち手が無い方が手に収まりやすい」と、順平君が採用したには、コペンハーゲン発「MKスタジオ」のコーヒーカップ。ホットコーヒー¥500~

店では、スタッフ考案のコーヒーカクテルも。発酵させたコーヒー豆を使い、リンゴや洋ナシの酸味が暑い日にぴったりの葡萄-cafe vino- ¥700

コーヒー豆が持つフレイバーを最大限に引き出し、焙煎後3週間以降を目安にリリース。定番を置かず、時期に応じて最良の豆を販売。100g ¥1,200~

コーヒーカルチャーを覆す、
コーヒー王の壮大な夢とは。

「俺、(出店後は)どうなるか見えてたから。珈琲業界で有名になる男やから」と、さも当然のこととして話すノリくん。そんな彼が展開する<テラコーヒーロースターズ>の指針はこうだ。「一番の目標は、スペシャルティコーヒーを飲む人口の底上げに貢献すること。店を作ることじゃない。そのためにまずは、世界に通用するロースターになって、本当のコーヒーの味を知ってもらうきっかけを作っていく。そこで誰よりも本物の豆を売って、最終的には海外の農園で自分達の豆のブランドができたらいいな」。そのプランの中で、順平君のベルリンのネットワークが生きてくるという。「日本の商社を挟まずにグリーンビーンズを引っ張れるルートを探ったり、海外のロースター経由で農園と繋がって、海外の商社から海外の豆を直接仕入れるようにしたい。ウチでしか取り扱えない豆のルートを作るべく、ゆくゆくは順平が1年のうちのほとんどの時間を向こうの農園にいるようなイメージ。今はそれを少しずつ体現していってる感じ」。

 

 高品質な豆の味をもっと多くの人に知ってもらうべく動いているノリくんの気概は、ホテルや飲食店で使われる高品質の焙煎マシンを無料貸し出し(!)する<テラコーヒーロースターズ>のコーヒーのサブスクリプションにも表れていると思う。「俺らがターゲットとして見据えてるのは、珈琲マニアじゃなく、普段街の喫茶店でコーヒーを飲んでるような世代のおっちゃんたち。浅煎りは当然飲み慣れてない。そこはせめぎあい。でもウチのコーヒーを飲んでいるうちに、純喫茶でコーヒーを飲んだ時に「…苦い?」みたいな違和感を覚えてほしい。そんな逆転現象が起こればいいなって。それに、googleやappleのような最先端の企業では、会社でハイクラスの珈琲を飲めるのがステータス。日本ではそんな文化が根付いてないから、それを作りたい」。その成果は実数としても上がっていて、開店当初は月間数キロだった焙煎量は、焙煎所開店わずか半年にして500kgを超えてきているそうだ。通常、開店10年前後の店でさえ100kg未満だそうだから、成長速度の異常っぷりが伺える。

 

「今、スペシャルティコーヒーって特別なものって思われてて、背伸びして飲むものになってる。そうじゃなくて、普通のカフェで当たり前に出てくるものにしたい。一般層にまで落としていって豆の消費量も増やして、世界の素晴らしいコーヒー農園を守っていきたいと思う」。王様の視線は、さらにスポーツ方面とかメタバースとかNFTとかまだまだ壮大なのだけど、カタチとして本当に実現してくれそうで、今からワクワクするのだ。

Terra Coffee Roasters 江坂公園Roastery

大阪府吹田市垂水町3-30-9

TEL : 06-7507-2017

OPEN : 11:00-18:00(土日祝10:00-)

HOLIDAY : 月曜・火曜・水曜

URL : https://terracoffeeroasters.earth

INSTAGRAM : @teracoffeeroasters

 

 

著者 / 松尾修平

大阪が誇る名物雑誌『Meets Regional』の編集長。常に街場に身を置き、関西の様々なネタを独自の目線で切り取る現場主義の編集者。

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